ある小説家の訃報

小説家、鈴木光司氏が亡くなったというニュースが流れた。享年68歳。
僕は熱心なファンではなかったと思う。読んでいたのは1990年代後半だったか。

ホラーとしてあまりにも有名な「リング」の作者だが(こう言われるのはご本人は嫌がるかもしれない)、当時のホラーは脅かす類のものが多かった中で、ちゃんと血が通った怖さがあった。ホラーが苦手な僕にも刺さったのは「らせん」「ループ」と続くあらたな視点に夢中になったからだろう。シリーズ完結編(番外編?)とも呼べる「バースデイ」は発売を指折り数えて待ち、購入したのを憶えている。

内容について語ると何日もかかるため控えるが、ループ界というSFの世界観や、貞子という女の子(生物学上はともかく、女性なのだ)の切ない青春時代の描写は純文学的でもあり、ホラーという枠には収まらないと感じた。もしくは、ホラーというジャンルを大きく進化させたのかもしれない。

面白いのは「リング」自体は生活費のために(ウケるものをと)割り切って書かれたもので、彼のエッセイや短編を読めばわかるが、本質は全く別のところにあるということ。多くの文章から家族に対する愛が伝わってきて、当時バイクに乗っていた僕は「紙おむつとレーサーレプリカ」という短編を今でも詳細に記憶していたりする(育児エッセイでも有名な方である)。

思い返してみると、鈴木光司という小説家は、内容が脳内で映像化される数少ない作家の一人だった。あの映画なんだったっけ、と考えて実は小説だったというケースはそう頻繁にあることではない(ちなみに映画化されたものは初期のリング以外ひとつも観ていない)。

貞子という人物を「怖い対象」として放置しなかったこともそうだが、人間に対する「優しさ」と「怒り」を明確に意識したのは彼の作品からかもしれない。多感な時期にしっかり影響を受けたのだと、いま改めて実感しているのだ。

訃報を聞いて彼の作品を確認してみたところ、「バースデイ」に収録された3編が好きすぎたせいか、その後の彼の作品はひとつも読んでいないと気がついた。いつの間にか「リング」の新シリーズも執筆されていたとのこと。今ではないかもしれないが、良いタイミングが必ず訪れると思うので、そのときにじっくり楽しもうと思う。

長い間おつかれさまでした。ご家族が健やかでありますように。
(影響を受けて育った人間の一人として)

Profile

富永 秀和のアバター 富永 秀和 Photographer

1983年福岡生まれ。グラフィックデザイナーから転身した職業フォトグラファー。2013年に中古購入した中判デジタルでその表現力の虜となる。福岡のシェアスタジオで経験を積み2022年に上京。
40歳で総合格闘技(MMA)入門。