第3回:トットチャンネル 黒柳徹子 (新潮社) 文章:2003年8月14日
【読書ごっこ】は私がこれまでに読んできた本の中で、
特別な想いのある本を紹介していくコーナーです。
読書を楽しんでいただけるように、なるべくネタバレなしで紹介していきます。
※尚、この文章は2003年に書かれたものです。無断転載厳禁!
“ベストセラーの続編”
ヒット作品の続編にはロクなものがないというが、もちろん例外はある。1981年に出版され、大ベストセラーになった「窓ぎわのトットちゃん」(講談社)の続編ともいえるのが、この「トットチャンネル」。著者は皆様ご存知、黒柳徹子。
俳優であり、世界に四人しかいない(?)ユニセフの親善大使であり、とうぜん一人の女性でもある。ところによっては“タマネギおばさん”と呼ぶらしいけれども、僕には、ただでっかいカツラをかぶってる人、という認識しかなかった。
たしかに色々な番組に出ていて「世界ふしぎ発見!」とかで、顔はよく知っていた。「徹子の部屋」なんか僕が生まれる前からやってるくらいだから、馴染みもあった。特に好きではなかったが、ぜんぜん嫌いじゃない、という程度の認識だ。
……そう、「窓ぎわのトットちゃん」を読むまでは。
※トットとは黒柳徹子さん本人のこと。小さいころ「テツコちゃん」を上手く言えなくて「トットちゃん」と言っていたとか。
“僕は高校二年生だった”
どうしてそんなものを買ったのか思い出せない。これがベストセラーになっていたなんて、まったく知らず、単なる気まぐれか、それとも好奇心か、カバーのいわさきちひろの絵に魅かれたせいかもしれない。
僕は「窓ぎわのトットちゃん」にハマった。残念ながら今は手元にないのだけれど(従姉妹にあげた)、なんとトットは、小学校1年にして退学になってしまう。やがてトモエ学園に入ったトットは、園長さんに言われる。「キミは、本当はいい子なんだよ」と。
この本、一度読んだらずっと忘れられないエピソードが、たぶんどこかで見つかると思う。
それから黒柳徹子のイメージはかなり変わった。
“テレビ創世記の逸話”
ある番組で(というのは忘れてしまったんだけど)、彼女が、テレビ創世記の話をしていた。クローズ・アップのときは、一台のカメラで他を撮っているうちに、もう一台のカメラの前に全力で走っていきアップで写る、失敗して取り返しがつかなくなったら、「終」と書いたボードをカメラに押しつけて終わってしまう、ということを実演して見せていたのが印象に残っていた。
そして僕はまたもハマってしまった。何気なく買った「トットチャンネル」は、まさにその時代の一部を写していたのだ。
読んだのがいつだったかは忘れてしまった。(自分でつくった本のデータベースにも購入の日付がない)
2001年だったかな~~
〜私的あらすじ〜
トットは新聞の求人欄にNHK専属俳優募集の広告を発見し、はじめて書いた履歴書を郵送するが、その履歴書は送り返されてくる。「新聞には、履歴書本人持参のこと、と書いてあったはずです」
おこづかいを握りしめてNHKに向かい、受け付けを済ませたトット。受験番号は5,655番。そこではじめて、彼女はとんでもない大規模なものに応募してしまったことを知るのだった。第六次までつづく試験。三ヶ月の養成期間――
養成期間を終えたトットたちは、テレビの一期生でありNHK東京放送劇団の五期生でもあった。のちにトットたち五期生は、当時大ヒットした「ゴジラ」をもじって「ゴキラ」と呼ばれるようになる。
はじめてやった「ガヤガヤ」の仕事。先輩たちのこと。局内の伝説的失敗談。
ひたむきにがんばるトットの姿は、オモシロおかしく、ときには涙をさそう。
黒柳 徹子(くろやなぎ・てつこ)
1933年8月9日、東京都生まれ。
53年にNHK放送劇団に入り、ラジオ・ドラマ「ヤン坊ニン坊トン坊」のトン坊役でデビュー。1981年に「窓ぎわのトットちゃん」を出版、空前の大ベストセラーに。84年に日本人としてはじめてユニセフの親善大使に任命される。「トットチャンネル」「トットちゃんとトットちゃんたち」「トットの欠落帖」「マイフレンズ」「チャックより愛をこめて」「小さいときから考えてきたこと」等、他にも著書あり。
この本には笑いがあふれているが、この笑いは根源的な笑いである。自分や、誰かが失敗して、笑う。それだけではないにしろ、単にユーモアあふれる失敗談、という要素がかなり濃い(「トットの欠落帖」はまさにそれ)。内容も、後半は散文的なものを上手い具合に詰め合わせただけのようにも感じる。そういった意味では、この作品は文学的ではないと、僕は思う。
もちろん、かと言って面白くないわけではなく、なんというか、まあ、とても面白くて、楽しい。いわゆる“タレント本”という枠にはとても納まらないだろう。ヒイヒイ言いながら何度も読み返して笑い転げたところが何ヶ所かあるし、かなり暗い話であっても、著者の持つある種のユーモアで面白く読ませてくれる。ユーモアというよりは黒柳徹子のキャラクター性とでもいうべきか。
その文章ににじむ雰囲気やテンポ、着眼点が、この本のいちばんの魅力。
正直、僕にとっては若干なじみにくい文章だったけれど(はじめは、ゆっくり読まないと頭に入ってこなかった)、テレビ創世記のお話、渥美清などの故人や森繁久彌との関係なんかも、けっこう楽しめた。
形としては、どこか一途で、どこか楽観的な、トットのサクセス・ストーリーだが、登場する人々への親しみや感謝の気持ち、両親への愛情、うれしさ、くやしさ、がギッシリと詰め込まれ、そこには哀愁さえ漂って見える。時の流れとともに失われたものを思わずにはいられない。けれど、時代は違えど考えることは同じというか、これだけテレビが発達してインターネットまで普及していても、根源的な部分は何も変わらないな、という当たり前のことを知らしめてくれた。
これからは特に、トットのような人が、もっと生きやすい世の中にしなきゃいけないと思う。
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ところで、なが~い“あとがき”でも大きくとりあげられている大岡龍男氏にとても興味がわき、調べてみようとネットで検索したけれど、ほとんど何も出てこなくてガッカリした。機会があれば触れてみたい。飯沢匡/黒柳徹子 共著の「つば広の帽子をかぶって」(いわさきちひろの評伝らしい)もぜひ読んでみたいと思う。
[徹子の部屋] 同名のTV番組の公式ホームページ。
http://www.tv-asahi.co.jp/broadcast/tetsuko/
[トットチャンネル] 黒柳徹子さんの個人サイト。ここで本などの情報が得られます。
http://www.inv.co.jp/%7Etagawa/totto/